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「ラノベ」判定法


今日もネットの海のどこかでは「ライトノベル」の定義についての議論?が行われているようです。それは別に構わない。最後の一人が勝ち残るまで、大いに戦って戦って戦ってもらいたいぐらいです。

 ただ、ひとつ気になるのは、最近このような発言をしばしば見かけることです。

https://togetter.com/li/1102752#c3662679 

その上昔のレーベルもライトノベルレーベル認定してるから、娯楽小説全般がライトノベル認定されるに至ってしまった。

ライトノベル」の概念が拡散し過ぎてもはや用語として意味をなさないまでになっている――こういう批判とも嘆きともつかない言葉がそこかしこで見られるようになりました。これは、果たして正しい認識なのでしょうか。

 たしかに、(わたしがラノベ定義論関係の話題に口を挟む時にたいていネタ元にしている)新城カズマライトノベル「超」入門』にも、このような記述があります。

 

ライトノベル「超」入門 [ソフトバンク新書]

ライトノベル「超」入門 [ソフトバンク新書]

 

 

かくして、ライトノベル十分条件を述べよ、ジャンルも何もかも一つとして取りこぼしてはいかんぞ――と(頭にピストルを突きつけられて)迫られたら、「翻訳ものではない日本国内の小説です」ぐらいしか答えようがありません。

しかし、これはあくまで、「ライトノベル」内部のジャンル多様性*1 について述べているだけであって、「ライトノベル(概念)」の一般文芸(非ライトノベルの小説)の領域への侵食を語っているわけではありません。

どうも、この「ライトノベル内の多様性」を(ラノベ批判の決まり文句である「画一化」へのカウンターの意味も込めて)ラノベ読者側が強調した結果、伝言ゲームによりそそっかしい人々の脳内に「拡散しきって空虚な『ライトノベル』概念」のイメージが形作られたのでは?という疑いもあるのですが、確証はないのでひとまず措いておきます。

ともあれ。このような「ライトノベル」の拡大解釈、というより「拡大解釈されている」という思い込みが広まることは、特に具体的な実害があるわけではありませんが、なんとなく落ち着かないものがあります。敢えて言い切ってしまいますが、少なくとも狭義のライトノベルに限れば、具体的な作品がそこに含まれるかどうかは、ある程度は明確な線引きが実際は可能です。その基準を以下に示します。

  

(似たような試みは『ライトノベルライトノベルめった斬り!』にもありましたが、ここではより基本的・初歩的な部分の再確認を目的にしています)

 

ライトノベル☆めった斬り!

ライトノベル☆めった斬り!

 

 ライトノベル度診断表(Web版)

 

 

1.小説

ライトノベルであるための第一条件、それは小説であること、です。ここで言う「小説」とは、散文で書かれた虚構の物語、という辞書的な意味以上の含みは特にありません。

当たり前の話だと思われるでしょうが、後述する、狭義のライトノベルレーベルから出版されている本の中にも、エッセイや漫画などが含まれていることがあります。これらを排除するために、ライトノベルが「小説」であることを改めて強調しておく必要があります。

 

 

 また、小説に比較的近い形態の文章創作として、TRPGリプレイがあります。これはテーブルトークRPGのセッションの様子を文字に起こして読み物になるよう手を加えたものですが、これも「小説」とは区別しておきます。その理由は、多くのリプレイが台詞とわずかな地の文(ト書き)で構成された戯曲のような形で書かれているという形式面の問題よりも、架空の物語ではあるが一方で実際のプレイの記録としての性質も持つ点にあります。

 

 

もちろん、リプレイを元にして小説として再構成したような作品や、単に作中で登場人物達がTRPGをプレイしているだけの作品は別で、これらは単なる小説です。また、TRPGリプレイ同様に台詞の連続で物語が進行していくが内容は純粋な創作であり、戯曲などのように上演を前提としない『まおゆう魔王勇者』のような作品(いわゆるSS)もまた「小説」として扱います。

 

  

 

  

2.レーベル

特定の小説レーベル、つまり「ライトノベルレーベル」から出ている作品かどうか、ということです。

ラノベレーベルから出ていればラノベ、というのは循環論法のようですが、ライトノベルの「定義」というような抽象的かつ普遍的な話をするのならともかく、個別の作品についてラノベ判定をするだけならば、これで十分こと足ります。ここでは、「ライトノベルレーベル」の定義も特に行いません。敢えて言うなら、これも次の項目の先取りになりますが、その初期から一貫して表紙や挿絵などにアニメ・漫画・ゲーム的なイラストを使用した作品が大半を占めている文庫レーベル、ということになるでしょうか(もちろんこれだけでは限定が不十分)

現存する小説レーベルのうち、「ライトノベルレーベル」と断言できるのは以下の通りです。

 

 

要は、ラノベの杜のレーベルリストのうち、「男性向け」 の「文庫」ということです。もしかしたら漏れもあるかもしれませんが、それはラノベの杜の方に言ってもらえれば……(丸投げ)

「富士見ドラゴンブック」「星海社文庫」「ノベルゼロ」を除いたのはミスではなく意図的なものです。ドラゴンブックはTRPG関連の書籍がメインのため。残りの二つは……レーベル側が「ラノベ」扱いしてほしくなさそうな態度をしており、読者の中にもそれを真に受け、もとい受け入れている層がいるため、ということにしておきましょう。

 

ぼくらは虚空に夜を視る (星海社文庫)

ぼくらは虚空に夜を視る (星海社文庫)

 

 

 「ライトノベルレーベル」かどうか意見の分かれる、ラノベの周辺領域の小説レーベルとしては、

 

といったものがあります。これらがなぜラノベレーベルと言い切れないのか、あるいは逆に、なぜラノベレーベルではないと言い切れないのかについては説明しません。というより説明できません。そういうものなのだと思ってください(個人的には少女向けも単行本も問題なくラノベだと思っています)。

 

3.イラスト

表紙や挿絵に、漫画・アニメ・ゲーム的なイラストが使用されているかどうか。もちろん、イラストが使われている側がラノベです。

漫画・アニメ・ゲーム的なイラストと言ったって、漫画にしろアニメにしろ色んな絵柄があるだろうって?じゃあ、オタク(向け)的なイラストと言えば満足ですか?という逆ギレはともかく、たとえば天野喜孝末弥純あたりはどうなんだといった疑問も当然あるでしょうが、ここでは無視します。なんとなれば、多少の絵柄の差異は狭義のラノベ判定においてさほど大きな問題にならないからです。

 

  

機動警察パトレイバー TOKYO WAR (前編) (富士見ファンタジア文庫)
 

 

さて、項目はまだ続きますが、実際のところ、ここまでで既にこの文章の目的の八割ぐらいは達成できています。つまり、この三つだけで、狭義のライトノベルを判定する基準としてはほぼ実用に耐えうると言って良いのです。

上の項目ほど優先順位が高く、更に言うと、1は絶対の条件であり、2と3の間には大きな差があります。これらの組み合わせをバカ丁寧に書き表すならば、

 

  • 1+2+3(狭義のライトノベルレーベルから出版されているイラスト付きの小説)=間違いなく完全にラノベ(A)
  • 1+2(狭義のライトノベルレーベルから出版されているイラストのない小説)=問題なくラノベ(B)
  • 1+3(非ラノベレーベルから出版されているイラスト付き小説)=ラノベと呼ばれることもある(C)
  • 1(非ラノベレーベルから出版されているイラストのない小説)=恐らくラノベではない(D)

〜〜〜〜〜(小説の壁)〜〜〜〜〜

  • 2+3(ラノベレーベルから出版されているイラスト付きの非小説)=ラノベではない
  • 2(ラノベレーベルから出版されているイラストのない非小説)=ラノベのわけがない
  • 3(非ラノベレーベルから出版されているイラスト付きの非小説)=ラノベではあり得ない
  • 0?(非ラノベレーベルから出版されているイラストのない非小説)=何しに来たの?

 

となります。

ラノベ関連の議論で問題になるのは、当たり前のことですが基本的には小説であるA〜Dまで(ほとんどの場合はCまで)です。そして、狭義のラノベ、議論の余地なくラノベと呼ばれているのはあくまでAとBだけなのです。とりあえずAとBのみを「ラノベ」として扱っている分には、特にめんどくさい話に巻き込まれることもなく、安全なラノベライフを送ることができます。そういうラインが、一応は存在するのです。

しかし、そこから一歩でも踏み出すのなら、「ラノベ定義論」という獣の危険性は多かれ少なかれ必ずつきまといます。たとえば、表紙にイラストが使用されているとはいえ狭義のラノベレーベル作品ではない野崎まど『[映]アムリタ』(メディアワークス文庫)の書影付きで「おもしろいラノベ読んだよ〜\(^o^)/」などとうっかりツイートしようものならそれだけで、翌日には「ラノベ帝国万歳」というビラを握らされて道端で冷たくなっている可能性も否定はできないのです。用心するに越したことはありません。

 

でもラノベ関係の話題に通じていそうな人が狭義のラノベ以外の小説を何の補足もなく無造作に「ラノベ」と呼んでることもあるじゃないか、と疑問に思った方もいるかもしれません。そうですね、むしろ日常茶飯事と言ってもいいでしょう。ですが、これは、ある作品がラノベかどうかについての自分とは異なる考え方の存在を知った上で、その意見を“絶対に殺す”という覚悟を持って自ら戦場に赴いているのだと思ってください。何気なく言葉を発しているように見えますが、その裏にはそういう炎のように苛烈な意志が隠れているのです。そんな不器用な生き方しかできない悲しい人種なんですよ、彼らは……

判定が難しい例の一つとしては、以前日記にも書きましたが、たとえば米澤穂信古典部シリーズ」のような、狭義のライトノベルレーベルが初出で一般文芸のレーベルから改めて刊行し直した、あるいは逆にもともと一般文芸が初出でラノベレーベルから出し直した作品はどういう扱いになるのか、という問題があります。

 

氷菓<「古典部」シリーズ> (角川文庫)

氷菓<「古典部」シリーズ> (角川文庫)

 

 

 

個人的には、少なくともラノベレーベルで出た分に関してはラノベと断言して良いのではないか、と思うのですが、この程度の控えめな結論であっても、ラノベ宗教戦争のリスクをゼロにすることはできません。ということで、この手のややこしい経緯の作品はやはり「狭義のラノベ」からは除外しておいた方が無難です。

 

 

以下の項目はいずれもオマケみたいな、あってもなくても結論は変わらない程度のものですが、一応続けます。

 

4.オリジナル

その作品自体以前に、原案・原作となるものが存在しているかどうか、です。原作付き作品、つまりノベライズは、ライトノベルそのものとは言い難い、とされる場合もあります。ただ、原作付きでありながらも、ラノベとしての知名度の方が上になったようなケースも時にはあるのですが。

 

また、原作などとは微妙に事情が異なりますが、ネット小説が初出の書籍化作品は、ラノベレーベルから出ていたとしても従来のラノベ(「伝統ラノベ」という呼び方が提唱されたこともありました)とはやや区別されているようなところがありましたが、現在ではネット発の作品が増えたこともあって、そのような垣根はほぼ無視して良いでしょう。

 

 

 5.判型

レーベルの話と重複しますが、一般的にラノベには文庫サイズのイメージがあります。

とはいうものの、狭義のライトノベルレーベル以外から刊行されているのであれば、それが文庫だろうがノベルスだろうが単行本だろうが、「ラノベっぽさ」に関してはそれほど大きな差はないと思われます。

 

6.国産

最初から日本国内の読者向けに書かれた作品であるかどうか。

上に引用した『ライトノベル「超」入門』でも言われているように、ラノベは日本独自の文化、というのがかつての通説でした。ですが、現在では海外でも「ラノベ」と呼んで差し支えないような形式のイラスト付き小説も出ているようで(実際に読んだことはまだありません)、ラノベ判定基準の優先順位としては低くなってきていると言えます。

 

7.文章・物語内容

ラノベそれ自体は小説のジャンルではなく、内部に多数のジャンルを内包する「場」である、というのが自分の考えなわけですが、もちろん全くの自由というわけにはいきません。各ジャンルとの相性の良し悪しというものは当然あるでしょうし、それが結果として実質的な制限となっていることもあり得ます。であれば、「ラノベらしい」文章や内容というものを定義することも可能なのでは……?

が、これに関してはあまり執着しない方がいいでしょう。内容や文章といった小説としての中身のみからラノベかどうかの判定を行うことは、はっきり言って非常に危険だからです。上で「議論の余地なくラノベ」という表現を使いましたが、実際には、ライトノベルレーベルから出ていてイラストも付いていてついでにアニメ化もされているようなラノベを文章や内容を理由に「ラノベではない」と判断する、本末転倒な主張も世の中には存在しています。

これらのまとめに見られるような、論者の都合に合わせた「ライトノベル」の矮小化も、実在のほどは知りませんが「娯楽小説全般がライトノベル認定される」ようなラノベ拡大主義も、内容・文章を基準とした「ラノベ」判定の産物という点では違いがありません。その取り扱いには細心の注意を払いたいものです。

 

 

 

以上、「ラノベ」を判定する七つの基準について見てきました。分かっている人には言わずもがなの内容だったでしょうが、基本のキを確認しておきたかったのです。

ラノベレーベルから出ている小説ならばラノベとする、イラストが付いていればなお良し、というこのような形式面を重視した半ば機械的な判定法には、思考停止だという批判が加えられることがあります。ですが、「思考停止」ってそんなに悪いことなんでしょうか。外部の基準に判断を委ねることで公正さが保たれるのなら、無理に自分の頭で考える必要もないのでは。「自分の頭で考えた」結果の“事故”をいくつも見てきた身としての素直な気持ちです。

 

 

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*1:ここでは「超」入門同様に、ライトノベル自体はいわゆる「ジャンル」ではない、という立場を取る。