本格はてなブログ

うちはマックだからステーキ屋はあっちだぜ?

(完全版)「ラノベっぽさ」に対する恐るべき鈍感さ 〜とある〝本格ファンタジー〟なろう小説を例に〜

(08/02追記)


このように、「最後の眠り人は、魔王の城にて ~ダークスレイヤーの帰還~」の作者である堅洲(@kadas_blue )氏からの要請により一部削除して公開していましたが、堅洲氏が自由なレビュー活動の抑圧に批判的な立場であることが判明したため、以前の形に戻させてもらいます。


「本格ファンタジー」なろう小説との遭遇

わたしは毎日ツイッターで「ラノベ 小説」で検索をかけてる者なんですが(なぜそんな不毛な行為をしてるのかの説明は省略)、ここしばらく、とあるなろう作家の熱いツイートが頻繁に引っかかるのに気がつきました。体感的には、ほぼ毎日と言っていいぐらいのペースです。

当該なろう作家氏が日々強く主張しているのは、だいたい次のような内容です。

「自分の書いている作品は、ラノベ・なろう系ではなく、本格的なダーク・ハイファンタジー

「現在の小説家になろうは長文タイトルの異世界転生チート奴隷ハーレムが席巻していて、本格ファンタジーの居場所がない」

「出版業界も同様で、日本ではラノベ以外のファンタジー小説はほとんど存在しない」

小説家になろうは『ラノベ作家になろう』を切り離すべき」

「長文タイトルで読むやつはバカ」

ふむふむなるほど〜。

わたしも、初めて読んだ高河ゆん作品がGファンタジーコミックスの『超獣伝説ゲシュタルト』だったほどの大のファンタジー好き。

*1

「本格ファンタジー」と聞いては黙っていられません。さっそくそのなろう作家氏が書いているという、「テンプレ・ゲーム設定一切なしのちょっと大人向けダークファンタジー」を読んでみることにしました。


エルフ・「よりどりみどりですなぁ~!」・オブシダンソード

で、軽く流し読みしてみたところ。

あの……「エルフ」出てきたんですけど……?一般的なイメージ大体そのまんまの、長命とがり耳種族として。ついでに、ダークエルフもしっかりいますね。

ファンタジーにエルフが出てきて何か悪いのかって?

たしかに、「エルフが出てくるような剣と魔法のファンタジー」は、(異世界)ファンタジーの中で既にひとつのジャンルとして確立されてますよ。ラノベ含む小説でも漫画でもゲームでも、エルフが出てくる作品は無数に存在します。ファンタジーにエルフが出てくること、それ自体には何の問題もありません。

でもそれって、「本格ファンタジー」なんですか?

詳しくはないので大雑把な話になりますが、特に和製ファンタジーにおける現在の「エルフ」というのは、神話や民間伝承に登場するエルフを元にしてトールキンが創造した種族を、D&DだのWizardryだの経由でアレンジを加えつつ延々と流用している設定なわけですよね。いわば、n次創作的な存在と言っていい。

自分の感覚だと、(異世界)ファンタジーの本格度というのは、舞台となる世界をどれだけ自力で一から構築できているか、が一つの大きな基準です。そういう視点で見た場合、仮に参照先が指輪物語などの古典であっても、先行作品の設定を踏襲することは、ファンタジー本格度にとってマイナスにこそなれプラスになるとは思えません。

大元の大元である神話・伝説から改めて設定を起こし直して新たなエルフ像を提示するのでもない限り、そこに些末なオリジナル設定をどれだけ追加したところで、根本が「いわゆる長命長耳エルフ」でしかないのなら、それは結局のところ「テンプレ設定」の範疇でしょう。ファンタジーとして非ラノベ的な「本格」を目指すならせめて、エルフじゃなくてエルファント!鼻がデカくてブサイク!ぐらいのオリジナル種族に設定してほしいところですね(それで面白くなるかは別問題)

なお、この作品にはエルフに限らず、

「ドラゴン」
「吸血鬼の『真祖』」
「魔王」
夢魔リリム
サキュバス
「オーク」

といった、「いわゆる剣と魔法のファンタジー」でお馴染みの存在が次々に登場します。言うまでもなく、どれもこれも一般的なイメージほぼそのまんまで。やっぱテンプレ異世界ですね。


それから、セリフが……

「うーん……」
「えっ!?」
「おお~」
「ふんふん」
「うおっと!」
「だーいじょうぶですよ?」
「ふふっ、おもしろーい!」
「やぶさかではないですよ~」
「なるほどー」
「わかりやすい子なんですよ~」
「ん~……!」
「じゃーん!」
「冗談よ~」
「あったかーい」
「ええっ!?」
「へぇ~!」
「よりどりみどりですなぁ~!」
「いいですよ~?」
「ん~……ん!?」

といった感じの、非常に親しみやすい、ゆる〜くて軽〜い書き方になっています。

というかこれ、この前わたしがブログで取り上げた「ラノベ台詞」の好例じゃないでしょうか。

https://srpglove.hatenablog.com/entry/2020/04/21/213538

セリフでは、漫画的なデフォルメを積極的に行いましょう。

たとえば、主人公が何かに驚いた時の反応を考えてみます。

「うわっ」

「普通の小説」ではそもそもセリフ化されず「思わず声を上げた」など地の文で処理されることが多い部分でしょうから、これだけでもかなりラノベ的な表現です。しかし、もう少しはっきりとラノベに寄せると、こうなります。

「うっ、うわァああ〜〜〜〜ッ!?」

ひらがなとカタカナの混在。

長音符としての波ダッシュ(〜)の(4連続)使用。

感嘆符疑問符(!?)での驚きの強調。

もちろんこれが全てではありませんが、「ラノベ台詞」に用いられる手法の一例です。

かなり当てはまってるように見えますね。

さすがに全てのセリフがこの調子で砕けてるわけではなく、特に魔王など立場のあるキャラはそれなりに改まった口調で話すのですが、そっちはそっちで半端に硬い言い回しがかえってぎこちなく感じられるし……

地の文にしても、セリフの違和感を補うほどの洗練や重厚さは特になく、全体的に「大人向け」の小説としてはちょっとどうなのかな?と首をかしげるような文章でした。


それからそれから。このなろう小説、重要なアイテムとして「オブシダンソード」が出てくるんですよ、「オブシダンソード」。

は?「黒曜石(obsidian)」の「剣(sword)」だから「オブシダンソード」って呼んでるだけなんだが?なんか文句ある?って意識なのかもしれませんね。正論ではあります。

でもですよ。「黒曜石の剣」ではなくわざわざ英語(カタカナ)表記で「オブシダンソード」と書かれていれば、現代日本では一般的に、ロマサガにおけるディステニィストーンの一つ(が埋め込まれた武器)であるところの「オブシダンソード」を自然と連想するものですよね?(最近だとグラブルかもしれませんがどっちにしろゲーム)

作者が実際にどういう意図で「オブシダンソード」という名称を持ち出したのかは分かりませんが、わたしはこれを非常に「ゲームっぽい」表現だと感じました。もしかして、わたしが読んだことがない本格ファンタジー小説の世界では、「オブシダンソード」が「ロングソード」ぐらいの一般名詞として定着してるんでしょうか。

また、テンプレ設定の話とも関連しますが、「東方の国から来た刀を使う『サムライ』」も、RPGやそれに影響を受けたファンタジー作品(ラノベ含む)ではもはや定番の存在ですけど、「本格ファンタジー」として見るとどうなんでしょうね。まあ、銀河帝国で超戦士〈小姓〉が活躍するSFもあるぐらいだし、別にいいのかな。

いや、〈小姓〉の独創性とテンプレファンタジーサムライはやはり根本的に違うか……

「本格ファンタジー」氏が言う「ゲーム的な描写一切なし」というのは、多くのなろう小説のようにレベルやスキルその他のゲームシステム的な要素が作中世界に直接登場したりはしない、程度の意味なんでしょう。しかし、そう宣言されて読んでみた作品の中身が、「オブシダンソード」に「サムライ」で、物語の進行もRPGのイベントのような手続き感満載だったりした場合、かえって「ゲーム的ファンタジー」の印象が強調されるのは避けがたいですね。


「本格ファンタジー」……??

結論として、件のなろう小説を非ラノベ・非なろう的な大人向けの「本格ファンタジー」と称するのは、かなり無理があります

そういう、いかにも和製ライトファンタジー的な作品を書くこと自体はぜんぜん悪くないです。小説として面白いかどうかも別問題でしょう(自分は惹かれるものは特にありませんでしたが)

ただ、もしもこれを本気で「ラノベ」ではない「小説」の「本格ファンタジー」だと信じ込み、そのせいでなろうでは適切な評価が受けられないと頑なに主張するのであれば。はっきり言って、ラノベやなろう以前に小説全般に関する感性自体がどうしようもなく鈍すぎます。どの角度から見ても、一般の基準を適用した方がはるかに厳しい評価になる作品だと思うのですが(ラノベ・なろう基準で測った方がまだマシ)


ついでに、「本格ファンタジー」氏の周囲の文字書き仲間の方々について。

小説投稿サイトのシステム上、ブクマやポイントを融通しあったり宣伝の効率を上げたりするために、文字書き同士で繋がることに大きなメリットがあるのは理解しています。

ですが、あくまで友達としての付き合い・お義理で言ってあげてるのだとしても、「本格ファンタジー」氏の主張に「わかる〜」「だよね〜」と無批判に賛同しているあなた方の姿は、無関係な他人の目からは全員まとめてとんでもねえフシアナ文字書き集団に見えてますからね?

「アレを『本格ファンタジー』と認めてしまう人間が書いてる小説か……(゚A゚;)ゴクリ」という目で自作が見られてしまう。想像するだに恐ろしいそのリスクだけはしっかり御覚悟した上で、仲良し文芸サークルごっこに励んでください。


ラノベっぽさ」に鈍感な原因

今回の「本格ファンタジー」氏は非常に極端な例ですが、自分の作風を実態よりも過剰に「ラノベっぽくない」と捉えている小説作者じたいは全く珍しくありません。これは文字書き=アマチュアだけでなく、プロ作家にも言えることです。

「自分の作品は主人公が努力する/人が死ぬ/設定が細かい/戦闘シーンが熱い/地の文が多い/ハーレムじゃない/転生じゃない/チートがない/からラノベではない」と、傍目からはこじつけとしか思えない理由で自作を軽率に非ラノベ認定してしまう小説執筆者たち。なぜこのような勘違いが発生してしまうのでしょうか?

「そんなもんラノベしか読んでないからに決まってるだろ!」

と、考えてしまうのが素人の浅はかさというものです。

現に、「本格ファンタジー」氏の過去ツイートを見ると、「エターナル・チャンピオン」シリーズなどの海外ファンタジー小説の愛読者であることが窺えます(わたしは読んだことない)

では、何が原因なのか?

わたしはむしろ、ラノベをちゃんと読んでいないからこそラノベっぽくなるのだ、という逆説的な立場を取りたいです(逆説っぽいことを言うと頭良さそうに見えるので)

純粋に小説としての中身で比較したとき、「ライトノベル」と「一般文芸(いわゆる「普通の小説」)」の間には、明確で絶対的な境界線はありません。分かりやすい実例としては、過去にラノベレーベルから出版された作品が一般文芸レーベルから新装版として出直したり、その逆に一般作品がイラスト付きでラノベレーベルに、といったケースがありますね。

それでも、なんとなくラノベっぽい/一般文芸っぽいと多くの人が感じるような内容・書き方は、大きな傾向としては存在します。人は読書経験を積むことで、そのモヤモヤとした曖昧な領域を手探りで進みながら、個々の作品について「これはまあほぼほぼラノベ」「これは一般文芸寄りだけどラノベでも出せないことはないな」といったファジィな判断が徐々にできるようになっていくのです。

この嗅覚は、一般文芸だけ読んでいても、そしてもちろんラノベだけでも習得できるものではなく、両方についてある程度の読書量が必要となります。最初からラノベと一般文芸の境界を自明だと考えているような人ほど、こういった「訓練」がおろそかになりがちな印象です。

(まあでも、ちょっと要領のいい人なら、ラノベと非ラノベをそれぞれ2、3冊も読めば、「本格ファンタジー」氏よりはマシなバランス感覚が得られそうではあるけど……)


また、ラノベというジャンル自体の特殊性もこの問題に関わってきます。

ラノベは、「アニメや漫画やゲームを小説にしたようなもの」と言われることがあります。これはある程度は正しい捉え方で、ラノベの特徴と言われるものの多くは、アニメ・漫画・ゲームなど他のオタク分野の感覚を小説という形に変換し、貪欲に取り込んできた結果です。

「美少女ハーレム」にしろ「学園異能」にしろ「謎部活」にしろ「異世界転生」にしろ、隣接する他分野との関わりがなければラノベ内に生まれなかった流行でしょう。そのためラノベには、ジャンル内で発生した独自の要素と呼べるものが実のところそんなにありません。

逆に言えば、たとえラノベそのものは一冊も読んだことがなくても、現代日本で多少なりともオタクとしてアニメ・漫画・ゲーム等に触れていれば、ラノベ的」なものは日常的に摂取し影響を受け続けているとも言えるわけです。

これは、それと気付かずラノベの原液をグビグビ直飲みしてるような状態なので、そういう人がロクな自己分析もなしに小説を書き始めれば、「ラノベっぽさ」が無自覚に暴発する危険性はかなり高くなるでしょうね。ましてやジャンルが異世界ファンタジーときては。


あとは一般論として、自分自身に関することは冷静に判断できない、というのも大きいと思われます。

もしも確実に非ラノベと言えるような小説を書きたければ、そもそも自分の感覚を決して信用せず、主人公は70代の男性、題材は年金制度の崩壊、タイトルは内容を簡潔にまとめてるんだか雰囲気だけなんだか微妙な漢字二文字(「残尿」とか)とするぐらいの、「ラノベ」から精いっぱい遠ざかる努力をしておくべきなのかもしれません。若干、本末転倒な気もしますが。


お願い

いかがでしたか。

自分の作風を非ラノベ的であると無条件に認識している文字書きの方々は、それがどういう根拠に基づいてるのか(あるいは基づいていないのか)、これを機会に改めて考えてもらえると助かります。

そうしてくれれば、わたしのような野次馬が文字書きツイートを目にして、キェエエエエエエ!キェッ!キェッ!キッェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェッッッッ!!!!と奇声を上げる回数も減るでしょうし。

何とぞよろしくお願いしますm(_ _)m


(06/08追記)

(完全版)「ラノベっぽさ」に対する恐るべき鈍感さ 〜とある〝本格ファンタジー〟なろう小説を例に〜 - 本格はてなブログ

どの作品の話してるかくらい書いてよ。作者への配慮なんだろうとは思うけども

2020/06/07 23:58

最後の眠り人は、魔王の城にて ~ダークスレイヤーの帰還~

・大前提として、スキル、チート、異世界転生、ゲーム的な描写一切なし。

・ぱっと見「・・・ハーレム?」と思うだろうけど、実は孤独な旅をしたいがために、ヒロインたちの厄介ごとを片付けようとして、かえって信頼されて身動きが取れなくなっていく主人公が軸のひとつ。

・そしてなぜか欲がないため(伏線です)、安心して見ていられる主人公とヒロインの関係。

・剣も魔法も銃もある!とてもリアルな本格的異世界での冒険。戦闘もスタイリッシュだよ。

・おもに『眠り女』と呼ばれる、個性的で魅力的なヒロインたち。推しを見つけてみてね!

・海外ドラマやオープンワールドゲームに負けないオリジナルの広大な世界。

・ゲーム的な用語もありふれた設定も無し!それでいて神話レベルの物語がしばしば展開するよ!

・ダークファンタジーなので、激しい戦闘やえぐいシーンもあるよ・・・。

・でも基本的に「ハイでダークでカッコイイ!」ファンタジィだよ。

※実は謎も多いので、伏線を見逃さないでね!

長文タイトルがなぜ嫌われがちなのか?そして、長文タイトルが続くとどのような不利益を被るかを、長文タイトルで分かりやすく説明するよ。

やあみんな、30年近くレーベルが存在していない「一次創作としての本格ファンタジー」をこの時代に書き始めたちょっと熱い人だよ。

4.読者が『自分はそんなに馬鹿じゃない』とその作品を避けるケースが出てくる。


 比較的多くの小説を読んできた読者は『タイトル回収』や『タイトルの意味・仕掛け』を楽しみたい人も多く、この要素を捨ててるタイプの長文タイトルは『読む価値無し』として選択肢にも出てこなくなるケースが出てくる。

しかし、目が肥えた読者こそあらゆる作品に必要なファンなので、これはとても残念な事だ。

『小説を楽しむために投資を惜しまない良質な読者層』からは、『我々はそんなに馬鹿じゃないぜ?もっと良質のものを見せろよ!』って思われる事もあるだろう。

別に長文タイトルを否定はしない。ただ、タイトルの妙味という武器を捨てて、その作品を何年世で輝かせたいのか?は、創作者たるもの一度はじっくり考えてみてもいいのではないか?と思う。

*1:一応言っておくと、作中に「レベル」の概念とかが存在するタイプのファンタジーまんがです。

『統計はこうしてウソをつく』それと「ライトノベルが絶賛衰退中という事実」について

たまにはフィクション以外の本を読まないと頭クルクルパーになってしまう!という危機感に襲われて、適当に選んで読み始めたこの本。いやあ面白い。

なんらかの主張の根拠として持ち出される数字――統計が、時として信用できないものに変わってしまう理由を、実例を挙げながら分かりやすく解説してくれます。

たとえば、拒食症に関するこんなケース。

この問題に注意を引こうとする活動家は、米国には拒食症の女性が15万人いると見積もり、拒食症は死を招きかねないと指摘した。そして、ある時点からフェミニストは、毎年15万人の女性が拒食症で死んでいると報告し始めた。(これは相当な誇張だった。拒食症によるとされる死亡は年に70件にすぎない。)

(強調は原文)

これはこの本では「突然変異統計」と呼ばれている、元々の情報が受け手の解釈で歪んでしまった例の一つです。いわゆる伝言ゲーム状態ですね。それにしたってほんとにすごい変化だな。

こんな感じの思わず笑ってしまうような極端なものも含めて統計の「ウソ」が紹介されているので、数字に疎いわたしのような人間でもスイスイ読めてしまえる内容になっています。統計を見る上では基礎の基礎みたいな話なんでしょうが、それだけに素人にとっては納得と驚きのバランスが絶妙な一冊でありがたい。

さて、話は変わりますが、小説家になろうにこんなエッセイが投稿されたようです。

ライトノベルが絶賛衰退中という事実 テンプレラノベは商業的に批判されて当たり前

ライトノベル市場は半減したという事実を突き付けます。
ちなみにライトノベル市場ピークは2012年というのも嘘です。

とのこと。エッセイであるにもかかわらずキーワードに「史実 ミステリー 怪談 サイコホラー 近未来 ディストピア」が設定されているのもおどろおどろしいですね。

筆者の「らんた」さんは、はてなにもアカウントを持っている方のようです。

id:lantan2015 

それでは、肝心のエッセイの中身を見てみましょう。

ライトノベル市場は1996~1998年をピークに衰退しております。

今、ライトノベル市場は220億円です。よって、出版市場1兆3000億から見たら微々たるものです。

ライトノベル市場が2012年をピークに衰退というのも嘘です。出版市場はもっと前から衰退してます。2012年のライトノベル市場は約250億です。

よく考えてみ?書店が1日1軒ペースで潰れて行ってる時代ですよ。出版市場そのものが半減したんですよ。1996年比で。ライトノベルが絶好調なわけないじゃないの。

で、1996年の出版市場2兆6000億の時代の時のライトノベル市場は約500億円あったんです。

ライトノベルの主読者層は30代男性、実に25%(4分の1)です。

20代男性入れると実に半分になる。10代男女はわずか15%です。

驚くべきことに40代読者が6%も居ます。

市場半減という事実をよくお考え下さい。

読者は半分減ったんです。「異世界・萌え・ハーレム・チート」にうんざりした人たちが半分居るという事実はでかいものです。

よく90年代ライトノベルと比べて今のライトノベルがいか病んでいるか読み比べてください。

以上!

うーん、なかなか手厳しいですね(^_^;)

まあ、ラノベ業界批判的な部分は正直わたしは興味がないので各自で評価していただくとして。ここでは、らんた氏の挙げた数字に注目していきたいと思います。

まず、ラノベ読者層について述べている箇所。らんた氏がどういったデータを参考にしたのかは分かりませんが、軽くググってみてはっきりとパーセンテージを出してるページは、これぐらいしか見つけられませんでした。

https://xbusiness.jp/young-adult-fiction/marketing

2016年9月に矢野経済研究所が実施した消費者アンケートより、「ライトノベルオタク」を自認する消費者は日本国内に約165万人と推計。年代は19歳以下:20.8%、20代:32.9%、30代:22.2%、40代:12.1%、50代:8.2%、60代:3.9%で、20代が市場を牽引。男女比は71.5%:28.5%。

30代と20代の合計でだいたい半数になる*1というところを除いて、エッセイの記述とはかなり食い違っていますね。特に、最も大きな割合を占めているのが20代なので、「ライトノベルの主読者層は30代男性」というらんた氏の主張には当てはまりません。

まあこれは2016年の記事ですし、あくまで調査のひとつでしかないので、らんた氏は別のデータを参照したのかも。

続いて、現在のラノベの市場規模について。らんた氏は「220億円」としていますが、これはどういう数字なのでしょうか。

孫引きになりますが、「ORICONエンタメ・マーケット白書2018」の数字と比べてみましょう。

たしかに徐々に売り上げが下がってきてはいますが、らんた氏の主張する「220億」と「280.3億」ではだいぶ違いますね。てっきり、文庫のみを見て(web小説の書籍化を中心とした)単行本の分を除外するという、現代ラノベの売り上げを見る上でよくある勘違い*2かとも思いましたが、仮にそれだとしてもORICONでは156.2億。「220億」は一体どこから出てきた数字なのか。

そして、最も気になるのが「1996年の出版市場2兆6000億の時代の時のライトノベル市場は約500億円あったんです」。これがどうしても分からない。

個々の作品(シリーズ)の部数ならともかく、ゼロ年代以前のラノベ全体の市場規模に関する資料が見つからないのです。もちろん、ネットで検索しても出てこないというだけなので、紙媒体ではどこかにはっきり記録されているのかもしれませんが……

また、追記部分で当時のヒットシリーズの名前を複数挙げて、これだけの作品があれば現在よりもはるかに市場が大きかったはず、というような主張をしていますが、

ライトノベルが絶賛衰退中という事実 テンプレラノベは商業的に批判されて当たり前

よーく考えてください。90年代はロードス島戦記だけでいったい、いくら売れたのか。スレイヤーズだけでいったいいくら売れたのか。クリスタニアというロードス島のスピンオフもありましたよね。フォーチュン・クエストというものもあった。卵王子カイルロッドというものもあったし、安井ラグナロクもあった。オーフェンもあった。爆裂ハンターもあった。フルメタル・パニック!もあった。十二国記もあった。ブギーポップもあった。風の白猿神もあった。これだけ見ても今のライトノベルは売上で勝てる気がしないでしょう?

それを言うなら、ラノベ累計発行部数ランキングトップ5のうち4シリーズが、96年当時には始まってすらいません。

1位『とある魔術の禁書目録』3,000万部

2位『ソードアート・オンライン』2,200万部

3位『涼宮ハルヒ シリーズ』2,000万部

4位『スレイヤーズ』2000万部

5位『フルメタル・パニック』1,100万部

なんにせよ、このエッセイには全体的に、数字を具体的に挙げながらも、その根拠を提示するという意識が欠けているように見えます。できれば今からでも、それぞれどこから引っ張ってきた数字なのか明記してもらえると、こちらも無駄に悩まずに済むのですが……

らんた id:lantan2015 さん、なんとかお願いできないでしょうかm(_ _)m




(20190730追記)

ライトノベルが絶賛衰退中という事実 テンプレラノベは商業的に批判されて当たり前

ライトベル歴代ランキング見るとですね、そこそこ売っていたはずのコバルト文庫系がないんですよ。明らかにおかしいですよ。コバルト、ホワイトハートティーンズハートをガン無視するのはおやめください。

わたしが引用したこのランキングでは、『吸血鬼はお年ごろ』『なんて素敵にジャパネスク』『炎の蜃気楼』『破妖の剣』『マリア様がみてる 』といったコバルト作品はちゃんと含まれてますね。

十二国記がないのは、ホワイトハートだからというより、後に一般文芸レーベル(新潮)に移行したからかな?「ライトノベル」の範囲をもう少し広げたこちらにはありますが、銀英伝幻魔大戦も含まれているのは議論を呼びそうです*3



ライトノベルが絶賛衰退中という事実 テンプレラノベは商業的に批判されて当たり前

というかごくごく1部の本だけ累計2000万部売って、大半の作家が1巻目~3巻目で終了という時代と、新人作家でもそこそこ売れていた時代のどっちが総売上あったのか。

なるほど。たしかに、こちらの本でも90年代にラノベ作家として活躍していた著者が「売上データがないので厳密にはわかりませんが、おそらくは初期、つまり八八年〜九二年の頃のほうが一巻あたりの売れ部数は大きかっただろうとは思います」と書いているので、一冊あたり(の平均)で見れば以前の方が売れていたのは事実かもしれませんね。

ただ、その直後に「とはいってもあの頃はそもそもライトノベルの点数自体が少なかったですし、売れないものは今と同じくらい売れなかったのも間違いないことですが」という言葉が続いています(一応言っておくとこれは2006年の本)。

市場規模が「約500億円」だったとらんた id:lantan2015 さんが主張する96年と、2018年のラノベ刊行点数を比較してみましょう。


1996年 685

2018年 2,760

念のため言っておきますが、これは男性向け女性向け文庫単行本を全て合わせた数字です。

仮に平均値が大きく落ちているとしても、刊行点数が4倍になっており、かつトップの部数では過去を上回っている状況で、市場規模が半分以下にまで縮小しているということはあり得るのでしょうか。経済に詳しい人の意見が聞きたいところです。

ライトノベルが絶賛衰退中という事実 テンプレラノベは商業的に批判されて当たり前

返本率という数字の推移も含めて考えてほしい。本は再販制度商品ですよ。書店に並べておしまい、じゃないんですよ。


この二つのページを見てみると、96年の書籍返本率は35%よりちょっと上、2016年は37.4%となっています。たしかに増えてはいますが、二年で急激に上昇したりしていない限り、現在でも大きく見積もっても10%程度の差に留まるでしょう。発行部数からラノベの市場規模を考える上では、あまり気にしなくていい範囲ではないでしょうか、



ともあれ。らんた id:lantan2015 さんが90年代のラノベが大好きなのは分かりましたから、それはそれとして、それぞれの数字の具体的な参照先、特に96年のラノベの市場規模が「約500億円」だったというデータを示してもらえないでしょうか。

よろしくお願いしますm(_ _)m




(20190730追記2)

https://ncode.syosetu.com/n8433fq

この数字だけ見ても当時よりライトノベル本が売れてるはずがない。それどころか80年代~90年代ライトノベルは一般文芸への登竜門であった。

よく分かりません。ライトノベルが売れていたかどうかと、「一般文芸への登竜門」であることにどういう関係があるのでしょうか。むしろラノベ業界が好調であればあるほど、一般文芸に越境する必要性が下がりそうな気さえするのですが。

つまり勝手に滅んでいるのはエロ・異世界志向のダメなライトノベルでちゃんとしたライトノベルであるライト文芸は健全な市場として生きているということになるのではないでしょうか。「ビブリア古書堂の事件手帖」、「君の膵臓をたべたい」、「後宮の烏」、「閻魔堂沙羅の推理奇譚」……そうそうたるラインナップです。

だとしたら「(エロ系)ライトノベル」の衰退は喜ばしいことです。つまりまともな、本来あるべき方向に進んでおり、「なろうテンプレ」自体がもう通用しない、あるいは「なろうテンプレ」自体を変える(エロ・異世界NGテンプレとする)という方向に進んでいかざるを得ないという売り上げ数字という意味になります。

ライト文芸がお好きなんですね。

※つまりらんたが持っている数字を含めて正しい数字は持っていない世界、それがライトノベル市場という市場ではないでしょうか。

よく分かりません。完全に正しい数字というものは別にラノベ市場に限らずどこの世界にもないでしょうが、だからこそその数字をどうやって出したのか、どこから引用したのかをはっきり示すことが重要なのではないでしょうか。

というか単純な話ライトノベル売れてたら日本全国あちこちで本屋潰れてねーよ。

よく分かりません。現在のライトノベル市場が「出版市場1兆3000億から見たら微々たるもの」と、らんた id:lantan2015 さんご自身が仰いましたよね。それは、「出版市場2兆6000億」に対して「約500億円」だった(とらんた id:lantan2015 さんが主張する)96年においても大して変わらないでしょう。

そんなもともと微々たるラノベ市場が多少売れてようが売れていまいが、「日本全国あちこちで本屋潰れて」るかどうかを左右することはあんまり無いのでは。漫画ぐらい巨大な市場ならともかく。

というか、よく見たらいつの間にか現在のラノベ市場規模を220億円から180億に書き換えてますよね?

今、ライトノベル市場は180億円です。

どういう理由によるものでしょうか。



とにかく。らんた id:lantan2015 さんがライト文芸も大好きなのはよく分かりましたから、これまでに挙げた数字の根拠を出してください。どこかで見たような気がしたが思い出せないとか、なんとなくそう思っただけとかでも別にいいので。これが分からないと今夜は寝られそうにありません。

わたしの安眠のために、らんた id:lantan2015 さん、どうかよろしくお願いしますm(_ _)m


*1:もっとも、こちらのアンケートでは年齢層別に男女比は出していないが、らんた氏はあくまで「30代男性」「20代男性」について述べている。

*2:ライトノベル」とは文庫本で刊行されたものに限られる、という限定的な定義でラノベの売り上げ推移を論じることも可能だが、エッセイの追記らしき部分でらんた氏は「※当時は文庫=ライトノベルということにならないことに注意。1996年ノベルズ第3位は「創竜伝」です。つまりノベルズの売り上げにも注意していかないといけないのです」と述べているため、それもない。

*3:そもそもコバルトなど少女向けレーベルをライトノベルとして扱うこと自体に、東海学園大学人文学部人文学科講師の大橋崇行先生をはじめ、他ならぬ少女向けの読者の内部から強い抵抗があるのだが、今回はらんた氏の定義に従った。