い(い)きる。

生きることは言い切ること。

ラノベ巻末解説推進論者たちの主張から、小説における「解説」の意味合いを改めて考える


つまるところ一足飛びにラノベ界隈に評論市場を作ろうというのが安直で横着なわけで、まずは「一般小説の文庫末尾にはある解説」をラノベにも導入するところから始めるべき。

体系化や系譜の話も充分できるし、過度の権威化は避けつつも小遣い稼ぎの余地はちょいある、という程度に収める「ラノベ界に解説文の導入」、まずはこれでしばらく様子を見るの、悪くないと思うんですがねー。

本題に入る前に細かい指摘をしておくと、現時点でもラノベに巻末解説の例がないわけではない。主に新人賞作品に付けられていた、編集部による解説以外にも。

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

本題。ラノベ批評の足がかりとしての巻末解説を、という話は別にこの増田が初めてではなく、最初に言い出したのはたぶん、角川春樹事務所の編集者、中津宗一郎氏だろう。

たしかに、一般文芸(いわゆる「ふつうの小説」)の文庫の多くには巻末に「解説」が付いている。これこそが文庫本来の正しい姿であり、ラノベに解説がない事実は文化としての未成熟を表している、といった主張に説得力を感じる人も多いかもしれない。

しかし、それは果たして本当に正しい論理なのだろうか。

単純な事実の問題として、一般文芸の文庫とラノベの文庫では、実態に大きな違いがある。それは、一般文芸の場合まず最初に単行本なりノベルスなりで出た作品がある程度の時間を経て「文庫落ち」することが多いのに対して、ラノベの文庫レーベル作品は基本的に「文庫書き下ろし」である、という点だ。そして一般文芸でも単行本では、解説が付くケースは文庫に比べれば圧倒的に少ない。

最近では、一般文芸でも文庫書き下ろしが増えたり、ラノベでも特にWEB小説などは単行本で出版されることも多く、そこからの文庫落ちの例もないではないが、それでも基本的な構図はさほど変化していないだろう。

文庫解説と一口に言ってもその執筆者も内容も様々(作者の愛読者である有名人など非専門家が書いてることも珍しくない)だが、「解説らしい解説」となればそこに求められるのは、

  • 作品のあらすじ
  • 作者の紹介
  • ジャンル上の位置付け

あたりだと思われる。そのような解説を書くにあたって対象作品は、初めて世に出るものと、初出からある程度時間の経ったもの、どちらが書きやすいだろうか。また、作者については、全く無名の新人とデビューから数年後の作家では?

当然、どちらも後者のはずだ。作品・作家の世間的な評価がある程度定まってきた状況で、それを踏まえて整理したり新たな観点を導入したりして書かれるのが一般的な文庫解説だ。「解説」の材料に乏しい、まっさらな新人のデビュー作を渡されて、読む意味があるような文章を書くのはどれだけ優れた批評家でもなかなか難しい仕事だろう。一般文芸の文庫の解説が数ページでも価値を持つ(持ちやすい)のは、文庫落ちというシステムを前提としたいわば「後出し」だから、と言っていいのではないか。

ラノベレーベルでもノベライズなどでは解説が付くことが多いのも、これが理由だろう。アニメやゲームなどの先行する原典が、一般文芸における単行本同様の役割を果たしており、解説に値するような作品を取り巻く情報がノベライズ出版時点で既に蓄積されているのだ。

作品及び「新伝綺」という(極めて人工的かつ恣意的な)ジャンル・ムーブメントを伝奇小説の歴史の中で正統な後継者として位置付けようとした笠井潔による『空の境界』解説にしてもそうだ。あれは、講談社ノベルス版以前に同人版が出ており、また、『月姫』『Fate』のエロゲ2作で既にクリエイターとしての奈須きのこの名声が確立されていたからこそ可能だったとも言える。

空の境界 上 (講談社ノベルス)

空の境界 上 (講談社ノベルス)

繰り返すが、ラノベの文庫レーベルは一般文芸とは異なり、文庫書き下ろし新作が中心である。この違いを完全に無視して、一般文芸には解説があるのだからラノベにも解説を導入すべき、と単純に主張するのはあまりにも乱暴すぎるだろう。素性の分からない元増田はともかく、プロ編集者である中津宗一郎氏がこの点に気づいていないはずはなく、意図的に閑却しているのだとすれば余計に罪深い。

もちろん、一般文芸とは異なるラノベに適応した解説の形というものもあり得るとは思う。しかし当然ながら、それを実現するのは簡単なことではない。

元増田の、

作家的にも「あの人に自作の解説を書いて貰いたい」という欲求は少なからずあるはずだと思うのよ。

という話も、作家の希望が常に100%通る保証があるのでもない限り大した意味はない。

体系化や系譜の話も充分できるし、過度の権威化は避けつつも小遣い稼ぎの余地はちょいある、という程度に収める「ラノベ界に解説文の導入」、まずはこれでしばらく様子を見るの、悪くないと思うんですがねー

この手の人たちはなぜか頑なに「体系化や系譜の話」にこだわるのだが、仮に増田のような軽率な人物が舵取りをした場合、メリットよりもリスクの方がはるかに大きくなりそうだ。最終的に体系化を目指すにしても、そもそもラノベは体系化の難しいジャンルであるという前提を踏まえて慎重に行わなければ、偽史の温床となる可能性が極めて高いだろう。

また、「過度の権威化は避けつつ〜」と増田は言うが、わたしの目にはどうしても、外部・過去の権威との接続によってラノベの価値を高める働きを期待してるように見えてしまう。「お墨付き」がほしいなら、帯の推薦コメントで十分なのでは。



結論として。ラノベ解説推進派の方々はまず、「商品の完成度」を上げる≒ページ数分の値段を上げてまで付ける価値のある「ラノベ解説」の具体例を、自分で書くなり誰かに書いてもらうなりして、ネットで広く公開してみてはどうだろうか。それでラノベ読者の支持を得るのが、ラノベ巻末解説の普及に繋がる一番の近道だとわたしは思うのだが。